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『ウルトラマン』初期制作回について

 

今では日本を代表する特撮ヒーローとなった『ウルトラマン』。怪奇現象・怪獣事件を「特撮」で描いた画期的な番組として大ヒットした『ウルトラQ』を継いで、「怪獣と戦うヒーロー」「人間側が防衛チーム(科学特捜隊)を組む」という設定を取り入れ、生み出された。
つまりウルトラシリーズにおいて、実は「ヒーロー」の方が「怪獣の添え物」として誕生したのである。今となってはこのあたりを知らない人も少なくはないし、「ミニチュアなどで現実にはない世界を作る」特撮という映像分野における作品誕生経緯として、「ヒーロー」とその敵対者たる「怪獣」の在り方を考える上で興味深い部分だと言えよう。

 

モノクロだった『ウルトラQ』から一転、カラーでの制作となった『ウルトラマン』は、スタッフの試行錯誤により、今見ても新鮮な驚きをもたらす、素晴らしい特撮映像を作り上げていたが、初期の9本は、作品の方向性も模索すべく、放送順とは異なる順番で撮影されていた。
「小説と映像の違い」と同じようなことだと単純に考えてほしいのだが、「物語として」伝えることと「映像として」イメージを作ることの、どちらを優先して制作するのか、という考え方は、神経の使い方が違う部分もある。例えば、「絵」から作るアニメでは、「イメージ」ありきで所謂「絵コンテ」を制作してカット割りを決めたりするので、「リテイク」つまり「やり直し」となったとき、「イメージ」の方からはいじり辛い部分がある。
ミニチュアや着ぐるみなどを利用する以上、実写でありながらアニメ的な作り方もする「特撮」において、『ウルトラマン』の放送前に撮影していた9本を「作り方」から分析する意味は、作品制作の方法を考えると大きいのではと考えている。

 

そもそも、半年間放送された『ウルトラQ』は、放送開始前に撮影が完了しており、撮影期間は二年も費やしていた。『ウルトラマン』の制作で、カラーにもなり、ヒーローも登場させる中、放送と並行しての制作も実施するのだから、「イメージ」と「物語」の方針を立てるため、撮影順と監督の人選にも神経を使ったのは想像に難くない。
事実、制作期間の切迫が、この手の番組で定番の期間である「1年」の放送ができず、『ウルトラマン』が3クール(9ヵ月)で打ち切りとなった原因にもなった。
だからこそ、厳しいスケジュールに耐えたスタッフの気合で創られた映像のその制作方針にも、監督や登場怪獣などの順番を元にして、心を向けてみたい。

 

〇制作順一覧

以下、上から撮影順に並べたもの。
アルファベットは、監督毎(*1)に振り分けられた制作ブロック名である。
A 飯島敏宏
B 野長瀬三摩地
C 円谷一
放送話数 制作ブロック サブタイトル 登場怪獣
放送2話 A 侵略者を撃て 宇宙忍者バルタン星人
放送5話 A ミロガンダの秘密 怪奇植物グリーンモンス
放送3話 A 科学特捜隊出撃せよ 透明怪獣ネロンガ
放送7話 B バラージの青い石 磁力怪獣アントラー
放送1話 C ウルトラ作戦第一号 宇宙怪獣ベムラー
放送8話 C 怪獣無法地帯 どくろ怪獣レッドキング他
放送4話 B 大爆発五秒前 海底原人ラゴン
放送6話 B 沿岸警備命令 海獣ゲスラ
放送9話 B 電光石火作戦 ウラン怪獣ガボラ
一応補足すると、基本的にテレビ番組は、一回一回撮影することは少なく、「二本撮り」つまり一回の撮影で二回分の放送回を撮影する方が効率的だ。AブロックならAブロックで、まとめて撮った部分も多いと思われる。
撮影後の編集についても上記から多少前後はしたとされ、最初に光線の合成を実施した『ミロガンダの秘密』は、科学特捜隊員の武器であるスーパーガンの光線が、以降の回の稲妻状の光線ではなく、直線的となっている(*2)。
(*1)この三名は「本編」の監督であることも付け加えておく。
ウルトラシリーズは「特撮(つまり怪獣が暴れたりする映像)」部分に「特技監督」という役割も付けて演出するのが定番である。
(*2)俳優の手ブレに沿って光線を合成するのが難しいための処置。キングギドラが口から吐く引力光線も同じ逸話がある。

 

〇番組方針を支えた飯島敏宏

極めて有名な宇宙人であるバルタン星人が最初の撮影怪獣だったことからも分かる通り、飯島敏宏監督は「空想怪獣が出てくるイメージ」を制作する役割を担っていた。前作『ウルトラQ』の放送一回目に選ばれた『ゴメスを倒せ!』の監督を担当した功績もあっただろう。
飯島監督は、TBS社員としてウルトラシリーズに参加した監督であり、後に『金曜日の妻たちへ』も制作した人物。まずは「放送局」の人間として、番組の組み立ても実施するよう依頼された部分もあったと見られる。シンプルな四足歩行怪獣であるネロンガや、植物怪獣であるグリーンモンスといった怪獣の回があてがわれたのも、納得はいく。
また、「テレビ的な」発想についても逸話を持つ。バルタン星人のハサミがウルトラマンに壊されるシーンは、本当に壊れてしまったのを誤魔化すため撮影したものであり、編集でもそれを気にさせない流れにしたのだ。

 

〇イメージとドラマの野長瀬三摩地

そんな飯島監督とは異なり、黒澤明の助監督を務めていた「映画畑」の野長瀬三摩地監督。
このブロックは、放送第一話を優先するため、基本的に後回しで撮影を行うこととなった。『バラージの青い石』のみ先行していたが、この回では東宝と三島プロダクションが制作した映画『奇巌城の冒険』のセットを借りて、砂漠の町・バラージを撮影している。
映画界が衰退した当時、新たな表現の場としてテレビも意識していた映画監督も多かったのだが、カット割りなどについても、「リアルタイム性」が求められるテレビとは違い、映画の印象を残している。例えば、『侵略者を撃て』でバルタン星人は「いきなり」地球に来たことから物語は始まるが、『大爆発五秒前』は行方不明となった原爆について調査するうち、それを持っていたのはラゴンだったことが分かる、という構成だった。
このあたりの「ドラマ作り」の姿勢から、当時の「テレビと映画」の在り方を見てみるのもいい。

 

〇円谷一の制作方針

名前から分かったと思うが、円谷一監督は、円谷プロ社長の円谷英二の息子として、制作プロダクションを代表する監督(*3)として携わった人物である。
物語の始まりとして、ウルトラマンとの出会いも彼が担当した。このあたりで、上記二人よりも深く「物語」を構築した。
名脚本家・金城哲夫と共に、次回作『ウルトラセブン』でも大きな役割を果たした彼は、『怪獣無法地帯』では「予算の振り方」「子ども番組としての配慮」も意識した制作を実施したことも知られる。
大量に怪獣が出てくるこの回は、レッドキングのみ新たに作った着ぐるみで、以下の通り、他の怪獣は全て、『Q』に登場した着ぐるみの改造したもの。
・チャンドラー⇒ペギラ
・マグラー⇒東宝特撮怪獣のバラゴンが大元(*4)
・ピグモン⇒ガラモン
撮影に耐えるよう作る着ぐるみは想像以上に予算が掛かるもので、こういった経費削減も意識した上での、視聴者を喜ばせる苦労がしのばれる。
また、「ウルトラマンが一度に大量の怪獣と戦うのは、残虐表現になるので避ける」方針が『ウルトラマン』では徹底された。実際『怪獣無法地帯』も、最終的にウルトラマンが戦ったのはレッドキングだけだった。制作会社として、このあたりを示すのは重要だったのだ。
(*3)当時はTBS社員で、後に円谷プロダクション社長に就任。
(*4)『Q』の時点でパゴスに改造されていた。マグラーの前にネロンガに改造され、マグラーから更にガボラへ改造されている。

 

〇制作の「きっかけ」を考える

『ウルトラマン』という未知なる番組を制作するため、三人の監督が「物語」「イメージ」両方をどう構築するのか、試行錯誤した記録が、ここまでの解説で見えてきたのではないかと思う。
この文章を書いている時の筆者もそうだが「こういう作品を作りたい」と考えた後でエディットしていくと、文章の順番を入れ替えたりということはよくするだろう。映像制作でもそこは同じで、カットの並びを入れ替えて解釈を変えることだってよくある。そのための基準が、先述したようにアニメと実写で大きく変わったりするので、これから映像制作を目指す人に対しても、『ウルトラマン』でのこのような制作方針を見直して、参考にしてほしいと思っている。
正直、今の時代では、当時の『ウルトラマン』ほどの新鮮な作品を生み出すのは難しい部分もある。だからこそ、そもそもの「制作したきっかけ」を見直して、新たな創造に繋げることができるのではないかと、筆者は願うのだ。

 
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